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Zürich(9) - Bad Zurzach

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夜が明ける前から、雨戸越しにもなんだか外が明るいような気はしていた。

雨戸を上げてみたら、雪景色だった。アメリカへ帰る前の日だ。
「もし天気に恵まれたら、近くの展望台のある山へ登ってみよう」と言われていたが、残念なことに晴れなかった。
しかし、一晩でずいぶん積もるものだ。外のテーブルにパルメザンチーズのような粗さの雪がたっぷり積もった。

ちょっと遊んでみたり。 後で先生に見つかって「やれやれ、何をやっているかと思ったら・・・」と、ため息をつかれた。

雪を見たときに、こりゃ最終日はこのままのんびり家で過ごしておしまいだな、と覚悟は決めていた。

午後になったら、あれだけ積もった雪もかなり急速に溶けていく・・・。

「せっかくだから、Bad Zurzach にでも行こうか?」 と先生が言ってくれた。 わーい、温泉だ♪

・・・で、支度をはじめて気がついた。

   海水パンツがない!?

忘れてきた!と、そのときは思っていたが、自宅へ帰ってタンスや旅行鞄すべて引っかき回しても、お気に入りのポール・スミスのしましまパンツは見つからなかったので、きっとTSAがロストしたバッグの中を検査したときに詰め忘れたか、検査官が海水パンツのフェチで着服したのかもしれない。いつもこういうことだけは用意周到な僕が海パンを準備し忘れるはずがないのだが、とにかく見つからなかった。悔しいけど何の証拠は無いので、こないだまたポール・スミスのサイトからしましまパンツを買った。今度は盗まれにくいような、地味なモノクロームのしましまだ。

ということで、そのときは忘れたものと思っている。どうしようもないので、

「せんせい、パンツ忘れたみたい...。」

と、素直に白状した。

せんせい、少し思案しているようなふり。じゃあ、どこかほかの場所に行こうと候補地を探していると思ったら・・・
引き出しをゴソゴソやりだして、裁ちばさみを取り出してきた。

え゛?

右手に裁ちばさみを持ったまま、ルフトハンザのファーストクラスでもらったパジャマの下半分に手をかける。

何を考えているかわかった。

僕はパジャマ短くしたのをはいて泳ぐわけだ。でもまあ、日本の温泉では海水パンツはかないから、いいんだけど。
パジャマのズボンのすそをジャキジャキ切り終わった先生、続いて予想しなかった行動に出た。

自分のパジャマのズボンのすそもジャキジャキ切り始めたのだ!!

昔のベネチアへ行ったときの記事で書いてあったと思うけど、ベネチア旅行の際にルフトのファーストクラスに乗ったとき、パジャマのXLサイズを余分にもらったので先生に渡してあったのだ。それを気に入ったのか、ずっと愛用してくれていた。

そのパジャマの下半分をジャキジャキ切っている。
僕だけに恥ずかしい思いはさせぬ、というつもりだ。

なんかこう、ジーンとしちゃいました。

そして、ショート・バミューダみたいになっちゃったパジャマとバスタオルをかかえ、先生の黒いメルセデスに乗り込んだ。

もう日が少し傾き始めた時間だけど、夕方の温泉も一興。クルマで1時間くらいのドライブでBad Zurzachへ向かう。

途中、火山の噴火のような雲?蒸気?が見えてきた・・・ でもスイスに活火山は無いと思ったし。そしたら、源泉?

「せんせい、あの雲は源泉からのものですか?」

暫し沈黙。どうしてだか、返事を探しているらしい。

「あれは・・・ Nuke plant ぢゃ。」

え゛?

「・・・って、原子炉なんですか?? You mean... thermonuclear reactor, sir??」 

そりゃ僕のことを日本人=被爆者=東電くらい同義にとらえているだろうから、口ごもるわけだ。(苦笑)

「あれ?でも確かスイスもドイツとおなじで、原子炉を廃炉にしていく方向を打ち出しましたよね。」
「・・・政治家は風見鶏ばかりぢゃ。今その話題はあまり話したくない。」

う~ん、空気を読んだかぎり博士は原子力オッケーの人なのか。それにしてもスイスに原子力は似合わない気がする。

とか言ってるうちに、ほんとの源泉からの湯気がかすかに立ち上る場所まで到達。

遠目からみた Bad Zurzach の外観はこんなだ。火曜日、平日の午後4時半だけど駐車場はいっぱいだ。

うまいこと帰り客が出て行った場所にパーキング、入場口へ向かう。

温泉施設の入口は、かつての船橋ヘルスセンターみたいかもしれないし、常磐ハワイアンセンターみたいかもしれない。
どちらに似ていなくても、平和島クアハウスに似ているかもしれない。(どうしても日本の公衆浴場にこじつけたい奴)

数十年前にオープンしたらしいが、人気スポットで湯治客が絶えないようだ。チューリヒから気軽に来れるのもいい。

入場料を払って更衣室の鍵を渡され、入るとこんなになっている。
更衣室の入場・退場と着替え室もいろいろとおもしろい構造なのだが、さすがに撮ってお見せできないのが残念だ。

温泉とはいえ水着着用なので温水プール状態。単純泉みたいだが、かすかに硫黄臭く、重曹臭い。腐食がないからpHは中性。消毒が義務づけられているせいなのか塩素臭もある。たぶん1ppmくらい、わずかに添加されているようだ。

プールの写真を撮るのはかなりまずいんだろうな、と思いつつこっそり撮りました。

案の定、先生に見つかってこっぴどく怒られた。日本人的な感覚では「海水パンツはいてるから、いいぢゃん。」と思うのだが、入浴中の人を隠し撮りしたことになるようだ。でもサウナは混浴ですっぽんぽんなんだよ。ルールがわからん。

更衣室から温泉へ出る部分はこの、茶室のにじり口みたいな場所をくぐって出て行く。

外気温は氷点くらい。日が暮れるにしたがって氷点下でぐんぐん冷えていく。したがって湯気がもうもうと濃くなっていく。
視界が悪くなると思いきや、プール内にLEDが仕掛けてあって下から青白い光で照らされる。一種幻想的な空間だった。

『1回のご入浴は最長20分以内にしましょう』という標語に従う人はいない。温度が36℃しかないのだ。上がると寒い。
最初の30分は「にじり口」から出たところのプールにとどまり、少し温まってから流水プールとか打たせ湯とか楽しんだ。
結局、1時間半くらい体温よりもぬるい湯に浸かったのだが、それでも温まった。上がったらなかなか汗が引かない。
それでも落ち着いたところで風邪をひかないように服を着込み、クルマに戻って今回の旅行で最後の夕食に向かった。
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